コーチの長所を伸ばしてチームを引き上げていこうと思う
組織で戦わないと、選手個人の才能に頼っていると世界では勝てない!
スキークロスカントリー日本代表ヘッドコーチ 蛯沢克仁さんに 越後湯沢にてインタビューをしてきました。
蛯沢さん曰く、実は義務研修はとにかく単位を取らなければと言う思いで行ったんです。ただし どうせ行くのならば面白そうな研修を・・ そう思って選んだんですよ。
失礼な言い方ですけど、行ってみたら結果的に面白かった。僕はこういうの才能があって、よく当たるんです。とニコニコ笑いながら話してくれました。
今は 北京の大会を目指しています。北京で選手が入賞ラインに入ると言うのが目標ですね。世界で勝ち抜くためには スタッフもプロ化、そして選手もある意味プロ化して行きたいんです。
コーチが育つ環境を作り、同時に選手も強くするW(ダブリュ)目標ですね。これを達成する為にクロスカントリーのトップに入りました。
ヘッドコーチは運営管理を含めて全体をマネジメントするのが仕事。その中でコーチ陣を育てる事は大変重要な仕事だと考えています。
現役時代に実績のある人が名コーチになっている場合があるけれど、おそらく 其の人は選手をやってなくてもそれが出来た人だと思っているんです。 実績=優秀なコーチではない。 それは別世界のもので、決して延長線上にあるものではではありません。
それぞれのコーチの長所を伸ばす事で、チーム力を引き上げようとしているんです。
組織で戦わないと、個人の才能だけに頼っているのでは世界で勝てない。 個人の力だけを考えると その選手は伸びるとは思うけれど、その選手だけになってしまって クロスカントリー全体としては成り立たなくなってしまうと思うんです。クロスカントリーとしての土台を作りたい。蛯沢さんはそう語ります。
今、必要なのはコミュニケーション。 だから選手の状態について、だいたい理解していてもあえて、選手に聞くようにしています。「現状どう?」 という具合に。
コミュニケーションが悪いと 合宿をやっていても、練習の意図が伝わらず、「わからない」と感じる選手や、「疑問」を持った選手がいた場合でも、選手はその事コーチに言い出せず、我慢させる事になる可能性も出てきます。
育成というのは、足し算ではない。やるべき事をやっていても、そこに掛け算、割り算が起こる事もある。 そこを見抜いて把握する力がコーチには必要だと考えています。
例えば 長距離の選手を育成している中、短距離に才能を発揮できる選手が出てきたらその人を短距離の選手として伸ばすべきですよね? 臨機応変に対応する事が大事なんです。
コーチも選手も、目的は一緒。自分のやりたい事・自由度を尊重するけれど、チームの中で基準を作る事も今後、必要になってきますね。
今、コーチ陣の中には、スキーをやってきた人だけでなく 少し離れていた人も集めています。競技者からコーチになった方と意見が別れる事もあるけれど、第三者的な全く違う視点があるという利点があるんです。
今回 スポーツコミュニケーション研修に参加して気がついた事は、体育会的な考え方だけでなく、コミュニケーション力という能力を取り入れる事で、コーチ陣のスキルを上げる事が重要だということです。
これは、今のスポーツ界に一番足りない部分です。選手として頑張ってきた分、選手としての意識が表に出てしまうんですよ。 選手を育成していく為にはマネジメントする能力が必要になりますね。
自分の経験だけで進むと、選手とは「時代」も「歳」も「性別」も違う選手もいますから上手くいかない事が多いんです。
自分はヘッドコーチだけど 選手にあえて言わない事もあるんですよ。 他のコーチから違う事を言われると間に入った選手が困ることもあると思うから。
トップダウンと言う言葉はあるけれど、自分の中では基本的には円卓なんです。だから、理想のチームというのは「横から見たらピラミッド型、上から見たら丸いな」というイメージ。
研修で学んだ内容は、コーチ陣とその利用方法を話し合う事で コーチ陣とコミュニケーションが取れる。 そういうツールとしても使える気がします。
今回の研修は、実は単位を取るために行ったら 結果的に面白かった。 それは、僕たちが解っているようで見失っていた部分だったからです。 僕は、技術のスキルは後付けでいいと思っているんです。
技術は、選手の才能で達成速度は違うので、コーチにはそれを早める為のスキルを身につけたほうがいいと言っています。 それは人間力的なものだと思うんです。 そのレベルを上げていきたいと思います。 ナショナルチームレベルは さらに付加価値をつけるかの能力 吸収、盗む コミュニケーション能力 が大事だと考えています。
長野、ソルトレークシティ、トリノと3大会連続出場している蛯沢さんはオリンピアになるための要素についてこう語っています。
肉体的には スピード、スピード持久。 精神的にタフちょっとやそっとでは負けない けど素直な人。 自己主張は強いけど 素直(聞き入れる)で臨機応変な人。 そういう人が 勝負の現場では勝てるのだと思うんですよね。
勝負は負ける事の方が多いので、そこから何をどう吸収する事ができるか、長所は活かしつつ、短所をなくしていく、周りからうまく吸収し、真似て自分らしい表現ができる器用さが必要ですね。
最後に、指導者はどうあるべきだと思うのかを聞いてみました。
指導者は兼虚であってほしい。コーチとして常に弊害がないか疑ってほしい(弊害のアンテナ) そうする事で選手がもっとオープンになると思います。若いコーチの方がその部分については柔軟さを持っていますね。
蛯沢さんは ヘッドコーチとして コーチの環境、選手の環境に目を配り、結果を出しながら、オリンピック北京大会に向けて、今後のクロスカントリーの土台作ろうとしています。
日本スポーツコーチング協会も 蛯沢ヘッドコーチに協力をしていきます。
蛯沢ヘッドコーチ、クロスカントリースキーチームの活躍を心から期待しています。
インタビュー:詫摩浩一 カメラ:詫摩世都子